老人ホームで死亡しても、条件次第では自宅の小規模宅地等の適用は可能
特定居住用宅地等に適用する小規模宅地等は、被相続人等の自宅の土地で、相続人が一定の条件を満たす場合に、その土地の評価額を80%軽減出来るというものです。
特定居住用宅地等の小規模宅地等の詳しい内容については、小規模宅地等の特例は8割も評価減が可能な相続税対策の王様に記載しています。
老人ホームに入居するということは、「被相続人の居住の用に供されなくなった」ことを意味します。
なので本来であれば、被相続人の居住の用に供されていない宅地は、小規模宅地等の適用は出来ません。
ただし、一定の条件を満たす場合には、小規模宅地等の適用が出来る可能性があります。
小規模宅地等の適用が出来る「一定の条件」
老人ホームで亡くなっても、自宅の小規模宅地等の適用を受けるためには、大前提として、下記の1~3を満たす必要があります。
- 自宅を貸し付けていない
- 自宅を店舗などにして事業をしていない
- 生計一の親族以外の者が住み始めていない
例えば、別居中であった親族が住み始めた場合、小規模宅地等の適用が出来なくなります。
それ以外にも、以下のような要件を満たす必要があります。
- 被相続人が介護保険法に規定する要介護認定、又は要支援認定を受けている場合で、以下の施設に入居又は入居
- 4-1.介護保険法に規定する介護老人保健施設
- 4-2.老人福祉法に規定する住居、養護老人ホーム、有料老人ホームなど
- 4-3.高齢者の居住の安定確保に関する法律に規定するサービス付き高齢者向け住宅
- 被相続人が障害支援区分の認定を受けている場合で、以下の施設に入居又は入居
- 5-1.共同生活援助を行う住居に入居又は入居
- 5-2.障害者の日常生活などを支援する法律に規定する障害者支援施設
要介護認定の判定は、被相続人の死亡の直前の状態で、認定を受けていたかどうかで判定します。
そして誤解が多いのですが、被相続人の介護のために老人ホームに入居するなどの条件はありません。
老人ホームへの入居理由は関係なく、あくまでも相続開始時点(死亡時点)において、被相続人が要介護・要支援などの認定を受けているかどうかで判定します。
老人ホームなどの施設を巡った場合には要注意
自宅の小規模宅地等の適用を受けるためには、老人福祉法に規定する老人ホームなどに入居する必要があります。
そして入居の理由に関係なく、相続開始時点(死亡時点)において、介護認定などを受けていれば適用の可能性があります。
ただ、注意点があります。
それは、老人ホームや介護施設を行き来した場合です。
あくまでも認定されている施設への入居が条件です。
介護認定と同じように、死亡時に認定されている施設に入居していれば問題ない、と思われるかもしれませんが、「途中で認定されていない施設など」へ入居していた場合には、小規模宅地等の適用は出来ません。
なので、以下のような場合は、全て適応不可となります。
- 自宅 → 未認定施設 → 認定施設(死亡)
- 自宅 → 認定施設 → 未認定施設(死亡)
- 自宅 → 認定施設 → 未認定施設 → 認定施設(死亡)
ただし、全て認定済みの施設なら、適用は可能です。
なので、以下の場合は適用可能です。
- 自宅 → 認定施設(死亡)
- 自宅 → 認定施設 → 認定施設 → 認定施設 → 認定施設(死亡)
利便性や入居状況などにより、認定の施設へ行くのが難しい場合もあるかと思いますが、相続税対策の観点から言えば、未認定の施設への入居は避けたほうがいいと言えます。
要介護認定申請中に死亡した場合
要介護認定の申請中に、老人ホームに入居している被相続人が亡くなった場合でも、その後に要介護認定が下りれば適用できます。
これは要介護認定等は、申請日まで遡って生ずるからです。
死亡日前までに申請をし、その申請が通れば、被相続人の死亡時点において要介護認定等を受けている状態となり、小規模宅地等の適用の条件を満たします。
なので、余命がもう数日しか無いような場合でも、認定申請をしていない場合には、要介護認定の申請をしましょう。
動画で解説
小規模宅地等の特例を、老人ホームに入所している被相続人の土地にも使えるか、ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
小規模宅地等の特例の対象となる土地の一つに、被相続人の居住用として使われている土地があります。
簡単にいうと、自宅の土地のことです。
では、被相続人が高齢となって老人ホームに入り、自宅で暮らしていない間に亡くなられた場合、自宅の土地に対して小規模宅地等の特例は使えるのでしょうか。
答えは、一定の条件をクリアすれば使えます。
条件は全部で4つあります。
まずは、4つすべてをとりあえず申し上げます。
後から詳しく説明を致しますので、まずはどんな条件があるのか気楽に聞いていてください。
1つ目は、自宅を誰かに貸し付けていないこと
2つ目は、自宅を店舗などにして事業をしていないこと
3つ目は、同一生計の親族以外が住み始めていないこと
4つ目は、被相続人が要介護や要支援の認定を受けて、一定の施設に入っていること
以上の4つとなります。
まず1つ目の「自宅を誰かに貸し付けていない」と2つ目の「自宅を店舗などにして事業をしていない」というのは、土地の用途を変えたらダメですよ、という条件です。
それから3つ目の「同一生計の親族以外が住み始めていないこと」では、老人ホームに入った後、別居中の親族がやってきて、その家に住み始めると特例は使えなくなります。
最後の4つ目の「被相続人が要介護や要支援の認定を受けて、一定の施設に入っていること」が4つのうち、もっとも重要な条件です。
まず前半部分の、被相続人が要介護や要支援の認定を受けている、という条件を、いつまでに満たせばよいのかといいますと、被相続人が亡くなる直前までです。
4つ目の条件は誤解されやすいのですが、要介護などの認定がまず先に行われていて、その後に老人ホームに入ったという順番でないとダメ、ということではありません。
あくまで亡くなる直前のタイミングで、要介護や要支援の認定を受けていたかどうかで判定されます。
つまり、亡くなるまでに認定を受けていれば、老人ホームに入所したきっかけが、要介護認定などが理由でなくても構わない、ということです。
そして、4つ目の後半部分の「一定の施設に入っていること」、ここには特に注意が必要です。
対象となる施設は、主に老人福祉法に定められる養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護保険法に定められる介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅など、高齢者の福祉に関係する法で認定を受けた、一定の施設に限定をされています。
被相続人が障害支援区分の認定を受けていれば、障害者支援施設なども対象になります。
もし、こうした施設として認定されていない場所に入ってしまうと、小規模宅地等の特例の対象から外れてしまいます。
しかも、いくつかの施設を巡って、そのうちの一つに対象外の施設があったときも、特例は使えなくなります。
たとえ、亡くなった時に入っていた施設が特例の対象でも、その前に入っていた施設が違っていたらアウトです。
これから施設を変えることを検討されている方は、注意をしてください。
最後に、要介護の認定申請を市区町村に行ったものの、認定が下りる前に亡くなった場合についてご説明します。
通常、申請から認定が下りるまでは、1ヶ月ほどかかります。
もし、その間に被相続人が亡くなってしまったら、4つ目の判定はどうなるのか、ということです。
この場合は、死後に要介護認定が下りても条件を満たすことになります。
認定が下りれば、その効果は申請日にさかのぼって、有効になるからです。
ですので、亡くなる時期が近いご家族がいらっしゃって、まだ認定申請をしていないという場合がありましたら、遺されたご家族の生活を考えますと、こうした申請をしておくことが望ましいといえます。