
私道(しどう)も立派な相続財産であり、相続税の課税対象になります。公道との見分け方や、相続税評価額が「3割」になるケースと「0円」になるケースの違いをわかりやすく解説します。
私道とは、国や自治体ではなく、個人が所有している道路のことです。
個人の持ち物である以上、私道も相続税の課税対象になります。

しかし、ひとくちに私道といっても形態はさまざまです。
そもそも私道なのか、どう評価すべきか迷うケースは少なくありません。
私道かどうかを見分けるには、主に次の2つの方法を使います。
公図を見ると、昔からある公道には地番が振られておらず、単に「道」とだけ書かれていることがよくあります。
一方で、個人の持ち物である私道には必ず地番があります。
そのため、公図を見て地番が振られていれば、私道である可能性が高いと判断できます。
ただし、例外もあるので注意が必要です。
昔の農道や水路、個人から自治体に寄付されたものの登記が終わっていない道路や、新しく作られた公道などには地番が存在します。
また、宅地と私道が一つの土地としてまとめられている場合、公図上では道がないように見えることもあります。
そのため、公図だけでなく住宅地図や現地調査を組み合わせることが大切です。

まずは法務局の全部事項証明書(登記簿)を取り寄せてみましょう。
また、市区町村で「名寄帳(なよせちょう・固定資産課税台帳など)」を取得し、非課税物件も含めて確認することが実務上の鉄則です。
役所の窓口で「非課税になっている物件もすべて出力してください」と念押しして伝えると安心です。
自治体によっては、指定しないと非課税の私道を省略して発行してしまうケースがあるためです。
なお、名寄帳は市区町村ごとの発行になるため、他の市区町村にも不動産がある場合は、そちらの役所でも忘れずに取得する必要があります。
地目が公衆用道路になっていないか確認するのも有効な方法です。
ここで相続初心者の方が非常によく間違える落とし穴があります。
それは、「固定資産税が非課税(0円)になっているから、相続税もかからないだろう」と思い込んでしまうケースです。
毎年春に届く「固定資産税の課税明細書」や、役所で発行される「固定資産税評価証明書」には、非課税の私道がそもそも載っていないことが多々あります。
そのため、自分が私道を持っていること自体に気づかず、相続税の申告漏れになってしまうトラブルが後を絶ちません。
実際には、固定資産税は免税されていても、行き止まりの私道などは相続税の課税対象(3割評価)として申告が必要になることがよくあります。
固定資産税が0円でも、相続税はかかるケースがある点にはくれぐれも注意しましょう。
ここで「固定資産税評価額が0円なのに、どうやって元の金額を計算するのか」と疑問に思うかもしれません。
明細書に載っていない私道は、市街地であればその地域の「路線価」を基に計算し、それ以外の地域であればご近所の似たような宅地(近傍宅地といいます)の評価額などを参考にして計算を行います。
資料だけでなく、現地を見ることで公道か私道かを推測できる場合もあります。
公道は国や自治体が管理しているため、定期的に補修や整備が行われます。

一方、私道は原則として所有者が自己負担で維持管理しなければなりません。
ただし、自治体によっては補修費用の一部を補助してくれる「私道整備助成金」などの制度が用意されていることもあります。

そのため、道路が未舗装だったり、凸凹のまま放置されていたりする場合は、私道である可能性が高いと推測できます。
ただし、分譲地などの開発道路や位置指定道路の場合、私道であってもアスファルトで綺麗に舗装されているケースが多々あります。
「綺麗に舗装されているから公道だろう」と思い込んでいたら実は私道だった、というケースもよくありますので、見た目だけで判断するのは危険です。
もう一つ注意したいのが、私道ではなく建物の敷地の一部とみなされるケースです。
たとえば、道路から細い通路を通って奥の家に入る旗竿地(はたざおち)が代表的です。
この細い通路部分は、私道ではなく建物の敷地の一部として扱われます。

なお、家の前の道路を広くするために敷地を下げた「セットバック部分」も原則として3割評価になります。
ただし、完全に公道と一体化して不特定多数の人が通っている場合は、例外的に0円になるケースもあります。
しかし、これは私道としてではなく、自分の敷地を評価する際のマイナス要素として計算する点が異なります。
相続税対策に有利だからといって、勝手にここは私道だと決めることはできません。
公図や役所での調査、現地の状況などを踏まえて、総合的に判断する必要があります。
私道と判定された場合、基本的には自用地(一般的な宅地)として評価した金額の3割となります。
自用地評価額については、【図解】自用地・貸家建付地・貸宅地の違いと相続税評価額の基本にて詳しく記載しています。
ただし、例外として評価額が0円になるケースがあります。
それは、その私道が不特定多数の人が通行するために使われている場合です。
誰もが自由に通り抜けできる道や、駅や公園へ向かうための公共性の高い道などがこれに当たります。
一方で、行き止まりになっており、奥の数軒の住人しか使わないような道は不特定多数とは認められません。
この場合は0円にはならず、3割評価となります。
ただし、行き止まりであっても、その奥に公園や地域の集会所、神社などがあり、不特定多数の人が日常的に利用するような場合は、例外的に0円になるケースもあります。
不特定多数に当てはまるかどうかは税務調査でもよく問題になるため、利用状況をしっかり確認することが重要です。
税務署へ「通り抜けできること」を客観的に証明するためにも、実際に近所の人が使っている様子がわかる現地の写真などを残しておくと安心です。
なお、一つの土地の中に宅地と私道が混ざっている場合は、それぞれの面積に分けて評価します。
また、ご近所さんと私道を共有している場合や、道路の一部を切り取ってパズルのように単独で所有している(相互持合)場合もあります。
共有の場合は、全体の3割評価額を出した後に、自分の持分割合を掛けて計算します。
単独所有の持合であれば、自分が所有している部分の面積について3割評価を行います。
ちなみに、3割評価となってしまう私道でも、税金を大きく下げられる可能性があります。
ご自宅の敷地と一体として使われていれば、「小規模宅地等の特例」という制度を使って、3割評価された金額からさらに8割減(実質ほぼ無税)にできるケースがあります。
ただし、この特例はご自宅の敷地と私道を合わせて330㎡までという面積の上限がある点にはご注意ください。
この特例が使えるかどうかも、相続税を大きく左右する重要なポイントです。
私道は評価額が下がるため、これを利用した相続税対策を考える方もいらっしゃいます。
たとえば、既存の私道の幅を広げたり、自宅の敷地の一部を削って私道にしたりする方法です。
評価額を下げる効果はありますが、実行には大きな注意が必要です。
とりあえず相続の時だけ私道にして、後で宅地に戻せばいいと安易に考えるのは危険です。
もしその私道が、家を建てるために行政から指定を受けた道路(位置指定道路など)だった場合は要注意です。
また、奥の家が公道に出るための唯一の通路だったりした場合も同様です。
このような場合、勝手に道を塞いだり宅地に戻したりすることは建築基準法などで禁止されています。
後々大きなトラブルになる恐れがあるため、こうした対策を検討する場合は、必ず事前に専門家へ相談してください。
私道にも相続税がかかることや、維持管理費が自己負担であることを知ると、「いらない私道は手放したい(国に引き取ってほしい)」と考える方もいらっしゃるでしょう。
2023年から、不要な土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」がスタートしています。
しかし、実は「私道(通路の用に供される土地)」は原則として国に引き取ってもらえません。
制度の却下要件に該当してしまうためです。
私道は手放すのが非常に難しいため、将来の管理や相続について早めに対策を練っておくことが重要です。
私道に関して、もう一つ絶対に知っておきたい最新ルールがあります。
それは、2024年(令和6年)4月から義務化された「相続登記(不動産の名義変更)」です。
実は、自宅の宅地部分は名義変更しても、目の前の私道(共有持分など)の名義変更をうっかり忘れてしまうケースが非常に多いのです。
ここで特に注意が必要なのは、「2024年4月より前に発生した過去の相続分」の扱いです。
過去の相続で名義変更を放置している私道についても、猶予期限である「2027年(令和9年)3月31日」までに登記を行わないと10万円以下の過料(罰則)の対象になります。
昔の相続で放置している私道がないか、必ず確認しましょう。
私道は「相続税の申告漏れ」だけでなく、「名義変更(登記)の漏れ」も起きやすい財産です。
また、初心者が陥りがちなミスとして、遺産分割協議書に私道の地番を書き忘れるケースがよくあります。
公図などで見つけた私道の地番は、自宅の宅地とは別に、必ず遺産分割協議書にも記載しましょう。
ここから漏れてしまうと、後から私道だけ名義変更できず、二度手間になってしまいます。
将来その不動産を売却できなくなるリスクもあるため、手続きに不安がある場合は早めに税理士や司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。