
遺言の内容に条件を付けることは可能です。また、申告期限までに条件を満たせない場合は、一旦未分割で相続税の申告をし、その後条件を満たした時点で修正申告や更正の請求を行います。
結論から申し上げますと、遺言書の内容に特定の条件を付けることは法的に可能です。
例えば「長男が〇〇大学に入学したら遺産の半分を渡す」といった内容です。
ただし、遺言書を書く際は「長男に相続させる」ではなく「長男に遺贈する」と記載するのが安全です。
法律上、「相続させる」という表現に条件をつけると無効になるリスクがあるため注意しましょう。
また、どんな条件でも認められるわけではありません。
例えば「妻と離婚したら遺贈する」といった公序良俗(社会的な道徳観念)に反する条件は無効になるため注意が必要です。
このように、具体的な条件が達成された時にはじめて効力が発生する遺言を「条件付き遺言(停止条件付遺言)」と呼びます。
遺言者の想いを反映させやすい一方で、条件の書き方やその後の管理方法によっては後々トラブルになることもあるため注意が必要です。
条件付き遺言と似たものに「負担付遺言」というものがあります。
負担付遺言とは、「長男が家業を継ぐ代わりに遺産の半分を遺贈する」や「ペットの面倒をみるなら全財産を遺贈する」といった、相続人に一定の義務(負担)を負わせる遺言のことです。
条件付き遺言の場合、そもそも指定された条件を満たすまでは遺産を受け取ることができません。
一方、負担付遺言の場合は、義務を果たすことを前提に先に遺産を受け取ることができます。
しかし、遺産を受け取ったにもかかわらず約束(負担)を守らなかった場合、他の相続人や遺言執行者は「約束を果たすように」と請求することができます。
それでもなお義務を果たさない場合には、家庭裁判所へ遺言の取消しを求めることができます。
条件付き遺言を作成する上で気をつけたいのが、条件を満たすまでの間の財産管理です。
例えば、長男が大学に入学するまでの間、対象となる財産は誰がどうやって管理するのでしょうか。
管理者がいないと、条件達成前に他の相続人が勝手に財産を処分してしまうなどのトラブルが起こる危険性があります。
このような事態を防ぐため、条件付き遺言を作成する際は、財産を保全・管理し、遺言の内容を正確に実現してくれる「遺言執行者」を遺言書の中で必ず指定しておくことをおすすめします。
なお、数年単位で財産を管理した後に特定の人へ渡したい場合は、条件付き遺言よりも「家族信託」を活用する方が確実でトラブルが少ないケースが多くあります。
条件付き遺言を作成する上で、もし指定された条件が絶対に満たされなくなった場合はどうなるのでしょうか。
例えば「長男が大学に入学したら」という条件で、長男が進学せずに就職したようなケースです。
このように条件が達成不可能になった場合、その遺言部分は無効となります。
対象となっていた財産は通常の未分割財産として扱われます。
そのため、相続人全員で遺産分割協議を行って財産の分け方を決めることになります。
相続税の申告と納税の期限は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
しかし、遺言に条件が記載されている場合、この10か月の期間内では絶対に条件が成立しないケースがあります。
例えば、長男がまだ中学生なのに「大学入学」が遺産相続の条件になっている場合や、長女がまだ小学生なのに「結婚」が条件になっている場合などです。

このような場合、相続開始から10か月以内に条件を満たすことは不可能です。
条件を満たしていない以上、その遺産を相続したことにはなりません。
では、申告期限が来た時はどのように手続きを進めればよいのでしょうか。
このようなケースでは、当初の申告期限においては、その財産を「未分割財産」として扱い、相続税の申告を行います。
具体的には、条件の対象となっている遺産について、一旦は各相続人が法定相続分の割合で取得したものと仮定して税金の計算をします。
そのため、条件を満たすまでの間、対象の遺産は手に入らないにもかかわらず、法定相続分に応じた相続税は一旦自己資金などから現金で納付しなければならないという大きな注意点があります。
未分割申告を済ませた後、年月が経過して無事に条件を満たしたとします。
例えば、長男が大学に入学し、遺言通りに財産を取得することになった場合です。
この時、長男は当初の未分割申告時よりも多くの遺産を取得することになるため、本来支払うべき相続税が増加します。
そのため、税金が増える長男は修正申告を行って、不足分の税金を追加で納めることになります。
逆に、長男が遺産を取得したことで自分の取り分が減り、税金が安くなる他の相続人は更正の請求を行って、払い過ぎていた税金を返してもらいます。
税金が安くなる他の相続人が行う「更正の請求」には、相続税法によって「条件を満たしたことを知った日の翌日から4か月以内」という厳格な期限が定められています。
一方、税金が増える人の「修正申告」には明確な法定期限はありません。
しかし、実務上は更正の請求と足並みを揃え、同じタイミング(4か月以内)で手続きを済ませるのが一般的です。
なお、条件を満たしたことで初めて相続税の申告義務が生じる人の場合は、申告義務が生じたことを知った日の翌日から10か月以内が申告期限となるため注意しましょう。
期限内に更正の請求や修正申告を行った場合、過少申告加算税などの罰金的なペナルティはかかりません。
また、本来の申告期限(相続開始から10か月)から遅れて追加の税金を納めることになりますが、今回のように「後から条件を満たして遺産分割が確定した」という正当な理由による修正申告の場合、延滞税(利息)は特例によって免除されます。
とはいえ、条件を満たした後は相続人同士で連携し、早めに手続きを一緒に済ませることが重要です。
なお、この時に財産を評価する基準日は、条件を満たした日ではなく、あくまでも亡くなった日(相続開始日)となります。
未分割の状態で当初の相続税申告を行う際に、絶対に忘れてはいけない重要な注意点があります。
それは、未分割申告のままでは「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった、相続税を大幅に安くできる強力な特例が使えないということです。
後から条件を満たし、最終的な財産の分け方が決まった際(修正申告や更正の請求時)にこれらの特例を適用させるためには、当初の未分割申告を行う際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を税務署に提出しておく必要があります。
また、大学入学などの条件達成までに3年以上の年月がかかってしまうケースもあるでしょう。
その場合は、3年を経過する日の翌日から2か月以内に「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」を追加で税務署へ提出し、承認を受けられれば、引き続き特例適用の権利を延長することが可能です。
ただし、税務署が認める「やむを得ない事由」は、原則として相続人同士で裁判や調停をしていて遺産分割ができない場合などを想定しています。
そのため、「大学入学」といった個人的な事情が認められるハードルは非常に高いため注意が必要です。
この手続きを忘れると、いざ条件を満たした時に多額の税金を納めることになりかねません。
特例の適用を前提とする場合は、このような条件付き遺言を作成する前に、必ず税理士などの専門家にご相談のうえ進めるようにしてください。