
エンディングノートの最大の強みは、「相続が始まる前(生前)」から家族と情報を共有できる点にあります。万が一、認知症になったり延命治療の判断が必要になった際にも、ご自身の意思をご家族へ確実に伝える重要な役割を果たします。
「遺言書をすでに書いているから、エンディングノートは作らなくていいや」
そう思われている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、エンディングノートには、遺言書ではカバーしきれない特有の大きなメリットがあります。
それは、「生前(ご存命のうち)であっても家族が中身を確認できる」という点です。
自宅などで保管している自筆証書遺言の場合、亡くなった後に家庭裁判所で「検認」という手続きを経なければ、開封や預金の引き出しといった具体的な相続手続きを進めることができません。
(※公正証書遺言や、法務局の保管制度を利用した遺言書は検認不要です。ただし、自分で保管している遺言書は、たとえ封がされていなくても検認は必須となります。詳しくは遺言書の検認とは?開けたら無効?罰則や相続登記義務化への影響も解説に記載しています。)
つまり、遺言書の内容をご家族が知ることができるのは、原則として「亡くなった後」になってしまうのです。これでは、以下のような希望があっても伝えるのが間に合いません。
亡くなる直前まで意識がはっきりしていれば口頭で伝えられますが、もし認知症等で意思疎通が難しくなってしまった場合、ご自身の希望を叶えることは困難になってしまいます。

だからこそ、生前から思いを共有できるエンディングノートが力を発揮します。一般的な記載項目は以下の通りです。
お葬式であれば、訃報を知らせてほしい方のリストや、希望する形式・宗派などを書いておきます。
財産については、銀行口座の一覧や各種契約書の保管場所を明確にしておくことが大切です。特に近年トラブルが急増している「ネット銀行」や「スマホのロック解除」といったデジタル遺産の情報は、必ず書き留めておきましょう。

なお、土地の売買契約書があるかどうかは、相続後にご家族がその土地を売却する際にかかる「譲渡所得税」の計算に大きく影響します。保管している場合は、必ずその旨と場所を記載しておいてください。
また、ご自身にしか価値が分からない趣味のコレクションなども、「〇〇というお店に持ち込めば価値を分かってくれる」等の情報を残しておくことをおすすめします。ご家族によってただの不用品として処分されてしまうのを防ぎ、同じ価値観を持つ人の手に引き継いでもらうためです。
エンディングノート自体には、財産を誰にいくら分けるか等を強制する「法的な効力」はありません。
しかし、いざという時の介護や医療の希望を託せるだけでなく、実は「遺言書を作るための最高の準備ツール」にもなります。
いきなり遺言書を作ろうとすると、以下のような専門的な事柄を考慮する必要があり、ハードルが高く挫折してしまう方も少なくありません。
一方、エンディングノートには決まったルールや形式がなく、気負わずに書き始めることができます。
これまで相続について深く考えてこなかった方でも、ノートの項目を埋めていくうちに自然とご自身の財産状況が把握でき、「誰に何を遺したいか」という気持ちの整理がつきます。その結果、スムーズに遺言書作成へとステップアップできるのです。まさにエンディングノートは遺言書への下準備と言えるでしょう。
ただし、どれほど立派なノートや遺言書を作っても、ご家族に発見されなければ意味がありません。作成したノートの保管場所は、必ず信頼できるご家族に伝えておきましょう。
相続税対策などのお金の問題も大切ですが、ご本人の想いを生前にしっかりと伝えておくことも、争いのない円満な相続には欠かせません。
もし、ご自身のお葬式について明確な希望がある場合は、ノートに書くだけでなく、生前に葬儀社と相談して「生前予約葬儀」を利用するのも有効な選択肢です。

遺言書は原則として死後にしか活用できないという特性を理解し、生前から家族と共有できるエンディングノートを上手に併用していきましょう。
土地を所有している方は、その土地の「履歴」や関連書類の保管場所についてもエンディングノートに記載しておくことを強くお勧めします。
例えば、以下のような情報です。
そして、以下の書類のありかも明記しておきましょう。
なぜなら、相続後にご家族がその土地を売却する場合、土地の取得時期や購入代金(履歴)が分かるかどうかで、負担する「譲渡所得税」の額が数百万円単位で変わる可能性があるからです。また、セットバックが必要な土地などは相続税の評価額を下げる要因になるため、節税の観点からも極めて重要な情報となります。
こうした資産価値や税金に大きな影響を与える土地の実情は、できるだけ早い段階でご家族へ伝えておくことが大切です。
というような事態は、相続人を慌てさせる大きな原因になります。
ご自身がお元気なうちに、エンディングノートを使って情報を整理し、ご家族に土地の状況を説明しておくことが理想的な相続対策の第一歩です。
エンディングノートには、書店や文具店で市販されているもののほか、葬儀会社や金融機関などから提供されているものもあり、様々な種類が存在します。
多くの既製品には、あらかじめ「医療・介護の希望」「財産管理」「葬儀やお墓」「自分史」といった項目が用意されており、空欄を埋めていくだけで完成するよう親切に工夫されています。一方で、普通の白紙の大学ノートなどをご自身専用のエンディングノートとして使い、自由に書き綴るという方法もあります。
「市販の既製品を利用する」場合と「自分でノートに作成する」場合の違いは以下の通りです。
| 作成方法 | 長所 | 短所 |
|---|---|---|
| 既製品を利用 | 項目が用意されており、何をどう書けばよいか迷いにくく時間短縮になる | 普通のノートに比べると値段がやや高い 自分には不要な項目も含まれている 自由に書き込めるスペースが限られている場合がある |
| 自分で作成 | レイアウトも内容も自由に書ける | 白紙から始めるため、何を書いていいか迷いやすい |
エンディングノートを作成するタイミングで、今後のさらなる安心のために以下の「4つの書類」もあわせて検討してみましょう。
尊厳死の宣言書
病気や事故などで回復の見込みがない末期状態に陥った際、過剰な延命措置を行わずに、人間としての尊厳を保ちながら自然な最期(尊厳死)を迎えたいという意思を、医療機関や家族に伝えるための書類です。ご家族に苦渋の決断をさせたくない、精神的な負担をかけたくないとお考えの場合には作成を検討しましょう。
任意後見契約書
将来、認知症などでご自身の判断能力が低下してしまった場合に備えるものです。元気なうちにあらかじめ「誰に(任意後見人)」「どんな手続きを(財産管理や介護施設の入所手続きなど)」任せるかを決めておく契約書です。
注意点として、単に当事者間で書類を作って終わりではなく、公証役場で公正証書として契約を締結する必要があります。
財産管理などの委任契約書
判断能力はしっかりしていても、病気やケガで寝たきりになるなど、身体が不自由になってしまった場合に備えるものです。信頼できる人に、銀行での「現金の引き出し」や「公共料金などの支払い」といった日常的な【財産管理】を任せるための書類です。これがあれば、金融機関に行くたびに本人の委任状を書かなくても、代理人がスムーズに手続きを行えるようになります。
死後事務委任契約書
エンディングノートに記載した「お葬式の希望」や「デジタル遺産(スマホやパソコン等の契約)の解約」「遺品整理」など、死後に発生する様々な事務手続きを信頼できる人に託すための契約です。エンディングノートや遺言書にはこれらの手続きを強制する法的効力がないため、ノートに書いた希望を確実に実行してもらうためには、この契約をセットで結んでおくことが極めて有効です。